埋もれた名作。と言ってしまっては制作者に失礼かもですが、いつどんなタイミングで素晴らしい作品に出会えるのかなんてわからないものです。
プレイし終わった直後にそう実感しました。
『atled -everlasting song-』
いわゆる美少女ゲームでして、Androidアプリ版の配信日が2013年9月20日と実に6年前ですが余りブログ記事は見かけません。
タイムリープ系シネマティックノベルというところでミステリー色のある物語を期待してプレイしましたが、想像以上に深い物語で感動しました。
- 20時間近い大ボリュームな長編物語にどっぷりのめり込みたい
- 時間を行き来する物語において、謎を紐解いていく難しさを楽しみたい
- 友情、愛情、家族、絆といった言葉に飢えている
という方にはおすすめできます。
定価800円の有料アプリなので、この記事では体験版で遊べる物語冒頭の過去に戻るまでのあらすじだったり、どんな物語で感動ポイントは何か、についてまとめています。
2割程度のネタバレ情報が含まれているので、少しでもネタバレが嫌な人は読まない方が良いです。
Androidアプリ版で出来ることの概要
いきなり余談な(余計かもしれない)豆知識的情報から。
atled(アトレッド)の意味
atled(アトレッド)って不思議なタイトルなので気になって調べてみました。
ギリシャ文字でΔ(デルタ)記号の逆である、∇(ナブラ)記号の別の言い方がアトレッド。なるほど、デルタのスペルを逆さにした読み方なわけです。
ただなぜこのタイトルにしたのかはクリアした後でもピンときていません。多分ですけど、Wikiに書いてあった
別系統の呼び名として、∇ が心臓を横から見た形に似ていることから「心臓」を意味するペルシャ語のデルがある。
この辺が由来なのかもしれないな、と勝手に思いました。
ゲームではなく読み物
アトレッドはジャンル表記がタイムリープ系シネマティックノベルと『ノベル』と言っています。
まず、ゲームではないです。
できる事はひたすらテキストを読み続けるだけでして、選択肢は一切出てきません。
つまりは読み物、長編小説を読む感覚で楽しむ感じです。だからこそストーリーは作り込まれており、こだわりが感じられます。
物語の構成
物語は全4章の構成。
最後まで連続した1本の流れになっているので章とかシーンとか意識する必要はないのですが、一応、区切りとして各章の最後にはスタッフロールと歌が流れます。
終わり方としては1章が一番綺麗な締めに感じましたけど、ただし1章だけでは解明されていない疑問に残る点は多々あって。
2章からはよりSF感と意外な展開にシフトし、そこから3章含めて鬱な展開へと。4章で更に色んな出来事が複雑に絡み、一気に解決します。
面白いのが主要な人物が3人いますが、主に章ごとにそれぞれの視点で描かれている点です。
サブキャラクターの物語もしっかり作り込まれている、故にプレイ時間は(ちゃんと計測したわけではないですが)20時間近くかかりました。
アプリのダウンロードはサイトから
アプリのダウンロードですが、Google Playではなくて公式サイトからダウンロードする形です。
また、別記事にて画像付きで体験版のインストール方法から製品版へとライセンスキーを購入する方法を全手順書いています。
無料でダウンロードできますが体験版ですので1章の途中までしかプレイできません。製品版は別途ライセンスを購入する必要があります。
因みにiPhone版はComingSoonなんて書かれてますけど、多分出ないと思います。さすがに6年も経過していると・・・残念ですけど。
手動セーブは必要
セーブはオートと手動と2パターンあり。
ただしオートでされるのは章の中の各シーン区切りのタイミングです。好きなタイミングで止めるには手動セーブが必要となります。

ロード時間については、さすが読み物なので皆無ですね。アプリ自体も実に軽いです。
(私のスマホの場合ですけど)3~4秒でアプリ起動してロード一瞬。長時間プレイしてもスマホ本体が熱を帯びることはなかったです。
過去に戻るまでの物語のあらすじ
体験版部分は1章の途中まで。はっきりと覚えてないですけど1章の1/3にも満たなかったと思います。
以下のあらすじは体験版の中でも更に半分程度、冒頭の過去へとタイムリープするまでをまとめました。
両親はいなくて幼くして養護施設で育ってきた『石巻 あおば』は同じく施設育ちの親友『福田 麻智』と共に生きてきた。
学園でピアノを習っている麻智は将来、歌の上手いあおばと一緒に演奏することを夢見ている。

時は2030年8月18日。
夏休みで2人は練習のため、人のいない学園へと向かう中、図書館にあるどんな願いも叶う本の噂について話す麻智。
ドイツ語で書かれたその本を借りた人は行方不明になったり女の子の幽霊を見るようになったり、いわく付きの本。オカルト好きのあおばは興味を示す。
学園ではあおばは機材のある視聴覚室へ、麻智はピアノ練習のため音楽室へ。そしてお昼休みに学園の屋上で落ち合う2人。
するとあおばは麻智が内履きではなくスリッパを履いていることに気づく。
実は麻智は『鹿妻 逢瑠』からいじめられていて、内履きを隠したのも逢瑠の仕業だといぶかしむあおば。養護施設の理事が逢瑠の親という立場にもくやしがっていた。
あおばはどれだけいじめられても決して辛さを見せない麻智のために精一杯支え続けたいと胸に誓う。
路上で歌う準備のために先に帰るあおばともう少し練習するために学園に残る麻智。
帰り道であおばは学園に宿題のプリントとチャットボードを忘れてしまったことに気づく。携帯で麻智に確認してもらうようにお願いする。
通話中のまま麻智は教室へと取りにいこうとする中で、あおばは突然、電話越しに麻智の悲鳴声を聞く。
返事が全くないため急いで学園へと戻ると・・・あおばはチャットボードを抱え倒れている麻智を発見する。

検査の結果、命に別状はないが麻智の右腕は何らかの麻痺が残ること、更に医師は突き飛ばされた可能性が高いことを伝える。
自分のせいだと気が気ではないあおば、そして病室から出たところで逢瑠と出会うと、犯人と疑っているあおばは逢瑠を問い詰める。
逢瑠は震え謝る尋常じゃない様子を見せ何も答えない。

ラチがあかないとあおばは病院を後に、すがる思いで図書館へ。噂の本を発見する。
チャットボードの翻訳機能を駆使して順番に項目を見ていくと『過去に戻る儀式』について書かれたページを見つける。

ある程度を翻訳した結果、過去に戻るには地面に魔法陣を描き、その中心に触媒として自分が大切にしている宝物を捧げること。
そして戻れる期間は1週間であり、誰かに自分が未来から来たことを話してはいけないこと。守らないと自分の未来を失う・・・と儀式のルールを読み解く。
開発途中で立ち入り禁止の裏山に移動したあおばは、親の唯一の形見であるネックレスを触媒に指定の呪文を唱える。
すると周りが白く光り始め自身の体は宙に浮き・・・気づくとあおばは過去に行っていた。
しかし、そこは自分が戻りたかった数時間前ではなく、2011年8月18日。19年前とあおばが産まれるよりも1年も前の世界であった。

定価8800円→800円をどう捉えるか?
アトレッドは元々は2012年にPCソフトとして発売された物です。Android版は全年齢対象のためにカットされたシーンがあります。
それ以上に一番重要なのはボイスが無いことです。
ただ個人的にはボイス無しで良かったと思います。後から動画でボイス有りの一部映像を見てみたのですが、自分のイメージとは大きくかけ離れていました。
ボイスが無かったことで逆により入り込めた部分はあるかなと思います(PC版は未プレイなのであくまで想像です。)
あとBGMの音質は悪いです。イヤホンで聴くと明らかにノイズが聴こえてくるのですが、ただまあ耳が痛くなるほどではないので支障はきたさないレベルではあります。
それに曲目が削られているわけではなくて、アトレッドは物語のボリュームが大きい分、挿入歌の数が多い。力を入れているのがわかります。
20時間のボリュームをどう捉えるか?
とにかく物語が長い、というのは良いところ悪いところ出てきます。
各章のプレイ時間の内訳
プレイ時間については正確に計ったわけではないですが・・・。ただとある方のレビューで15時間以上と書かれていたのもあり、そんなに外れてはいないはずです。
各章の内訳としては、体感ですが
- 1章:5時間
- 2章:2.5時間
- 3章:2.5時間
- 4章:8時間
少しネタバレでエピローグがあり、直ぐに終わるかと思いきや1時間近くかかったので・・・全部合わせると余裕をみて20時間くらいかなと。
なので、結構、気合い要ります。笑
大ボリュームの良いところ
20時間ってテキスト量でいくときっと何十万文字、下手したら何百万文字あると思うので、必然的に内容は非常に濃く感じました。
その上で上手くまとめられているとも思います。支離滅裂さは感じませんでした。
特に3人の主要人物は当然ながら、それ以外のサブキャラクターにおいても、それぞれのキャラクターがしっかり作り込まれているのでしっかり感情移入できます。
更に背景のエピソードも。ご想像にお任せして端折るであろうようなところも細かく描かれていたり。
一つ例をあげると、よくある起こった出来事を別の人にもう一度説明するシーン。普通は かくかくしかじかで と飛ばしそうなところをもう一度噛み砕いて説明してくれるので、自分としては整理できて非常に助かりました。
人によってはくどく感じるかもしれません。
大ボリューム故の障害
基本的には丁寧に描かれているとはいえ、支離滅裂まではいきませんが、いくつかは「何でこれからこうなった?」と繋がりに疑問を感じる部分はありました。
あとは1章の部分が終わり方含めて一番綺麗な物語に感じたところ。4章は少し複雑になりすぎ感があります。
そのため4章は二転三転する出来事に理解が追いつかず、さくさくとは読んでいけなかった。というところで時間がかかった部分もあります。
因みに私の好みで順位付けすると「1章>4章>3章>2章」となります。印象強く残った順というか。
3章は全体的に暗く、鬱なシーンが連続発生するのである意味とても印象には残りましたが・・・。
もう一つ因みに、テキストの表示速度においては全くストレスはなかったです。というのも、システム設定からメッセージ速度を『速い』に設定すると瞬間的に表示され、タップし続けるだけでかなりの速度で読み飛ばすことができます。
逆に少し押し続けてしまったがために数十行飛んだこともあったので注意が必要なくらいです。
というのを含めても軽いので気軽に楽しめます。(ただし画面は横向き固定。)
物語の深さと感動ポイント
物語において何が面白くて何に感動するのか、感じた部分をつらつらと書きます。
タイムリープならではの難解さ
先にストーリーは理解するのが難しかったです。特に4章ですが。
一つ例をあげると、2章からの展開でネタバレになりますが、単純に過去に戻るだけではなくて戻った影響によってもう一つの世界が生まれます。
並行世界(パラレルワールド)というやつです。
物語の中でわかりやすく第一世界、第二世界と名付けてくれてますが、同じ世界で同じ人物が登場するので段々と混乱してきます。
特に並行世界では同じ人物でも(過去での影響により)人間関係が異なっていたりするので、整理しながら読んでいかないとほんと混乱します。
「えーと今は第一世界だからこの人はこうで~・・・」のように自分の頭の中での整理が度々発生しました。
4章なんて第一世界 ⇔ 第二世界の場面転換が頻繁に行われ、同じ人物同士が会話したりなんてまで。

それぞれの世界での過去の出来事を踏まえた上で物語を紐解いていくのは難しく、ですが楽しい思考でした。
ストレートに想いを込めた台詞は胸を打つ
物語の中では前提(ルール)として、そもそも過去に行った者が何をしようが未来を変えることはできない、となっています。

でも結果として1章の最後に未来は変わります。
それはあおばの「絶対に親友を助けるんだ!」という真っ直ぐな想いと行動により価値観を変えるほどに影響を受けた人が出てきたため。その人たちの行動により未来が変わる、この流れは熱かったです。
もう一つ、強く感じたのが母親の存在でして、母は強しとよく言いますがそれは子供を守るために強くなれるわけで、言葉の重みが変わってきます。
結構、胸を打つ台詞が多くて、今回思わずキャプチャしてしまった回数が多いです。


(本当はここでもう一つ一番感動した台詞を紹介しようと思ったのですが、重要シーンすぎるので悩みに悩んで結局やめることにしました。)
男気溢れるキャラが多い
母親以外にもう1人。3人の主要人物と同じくらいに重要なキャラクターなのが『松島 晃司』の存在。あおばが過去で最初に出会い、以降ずっと彼女の支えとなってくれます。
最初、何かにつけて「ロック」ばかり言っているので単純思考なのかと思いきや、医大生で頭が良くて他人への気遣いにも長けている。
彼から発せられる台詞も中々カッコイイものが多いです。


晃司の父親がまた渋いという、蛙の子は蛙とは良く言ったものです。

他にも4章では赤井という刑事のおじさんが活躍しますが、これまた渋くカッコイイキャラなんですよ。
まとめ:美少女ゲームに先入観を持っている人ほどプレイしてほしい
タイムリープによる話の面白さと絆を描いた感動作であるアトレッドですが、何となく美少女ゲームだからということでこれまで躊躇いを感じて敬遠していた人にプレイしてほしいかもしれません。
私自身がそうなんですけどね。汗。正直なんか恥ずかしいのもあり今までほぼほぼプレイしたことはありませんでした。
やはり先入観は良くないなというのを痛感しました。
20時間近くも費やしたのはしんどいのもありましたが、結果的には満足度の方が高いです。少なからず2時間の映画を10本見たくらいの充実感はありました。
後から気づく点も多くて。エンディング後にもう一度最初からプレイしてみたら「あ、この人はもうこの時点で名前が出ていたのか!?」という発見があったり。
途中に何度かショッキングなシーンはあるし、性根が腐ったような人物も出てきますが、最後の最後はちゃんとハッピーエンドで締めてくれます。
大泣きとはいかなかったですが何度も目頭が熱くなる良作でした。
